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エリザベス1世

そしてエリザベスに対する恐怖心ということであれば、女王だけではなく、皇帝特使シモン・ルナールも同様であったようだ。彼は度々、カール5世に手紙で書き送っている。

「私は女王に進言しました。プリンセス・エリザベスが陰謀を実行に移すのを待つより、厳重に監視するか、ロンドン塔に閉じ込めてしまうべきであると」

エリザベスが陰謀に加担した形跡もないし、そもそもがそういう小細工をやるタイプの人間でもない。なのに「陰謀に加担」という妄想に憑りつかれるのは、エリザベスがそれだけ存在感もあり、反乱を企てようとする連中にとっては、統領に担ぐのに適した人物ということだろう。つまりエリザベスはもうこの時点で、義姉メアリー・テューダーを遥かに超える「大物の風格」が、隠そうとしても隠し切れないぐらいににじみ出ていた。

これはある意味では危険でもある。出過ぎた杭は打たれる。権力者の習性は、常に自分の地位を脅かす者を排除しようとする。これはどんな人物が就こうとも、権力というものが持ち合わせる魔性であり、権力の座に就いた者がほぼ例外なく罹る習慣病のようなものである。逆に言えば、そういう者を排除しなければ、その地位を維持できない者が大半である。

ここでエリザベスが王宮に居続けていれば、本当に彼女の命が危険に晒されていたかもしれない。だがこの時、エリザベスは幸か不幸か、体調不良を患って腹痛が続いており、メアリー・テューダーの陰湿な「口撃」がそれに拍車をかけた。これ以上王宮に居続けるのは限界であると感じたエリザベスは、ハットフィールド宮に引き下がっての静養を願い出て許可される。これでしばらくは学問に専念し、精神の安らぎを得られる日々が続く。エリザベスは命拾いした。

(以下、次回に続く)