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アンリ4世

●改宗と逃亡と快楽の日々

サン・バルテルミの虐殺」の翌日に、いとこのコンデ公アンリと共にカトリックへの改宗を強制されたアンリ。しばらくは王宮内で悶々とした日々を送ります。ですがまだ19歳。活力が有り余ってしょうがないアンリは、王宮の中の一室で大人しくしていられるタイプではありません。だからこそ、国王シャルル9世や王太后カトリーヌ、ギーズ公も「アンリを国許に帰すのは危険。虎を野に放つようなもの…」として、王宮に監禁しておく訳ですが…。

で、「サン・バルテルミの虐殺」という歴史的大事件の陰に隠れる形で、危うく忘れてしまいそうになりましたが、この時アンリはシャルル9世の妹マルグリートと結婚しております。このマルグリートという王女は、後にフランスの文豪アレクサンドル・デュマが著わした『王妃マルゴ』という作品の主人公になっています。この作品にはアンリとの結婚生活のことや当時のフランスの情勢のことが詳しく書かれていますので、興味ある方はご一読ください。

本来なら新婚ホヤホヤ。たとえ政略結婚とは言っても、そこはそれなりに楽しい新婚生活が待っていたはず。ですがせっかくの晴れの結婚式は「サン・バルテルミの虐殺」事件ですっかりケチが付いてしまい、それも影響したかこの夫婦、遂に最後の最後まで仲睦まじくなることはありませんでした。アンリは最初の頃こそ、虐殺事件のこともあり、それなりに神妙に過ごしてはいましたが、ほとぼりが過ぎてくると、これ幸いとばかりに「女好き」の虫が騒ぎ出し、宮中の貴族女性相手にロマンスを楽しむ始末。一方それを見たマルグリートは夫の浮気を歯噛みする思いで眺めている…。ようなやわな女性ではありませんでした。このマルグリート、子供の頃から勉強もでき、ハッキリ言って国王になる兄たちよりも優秀。しかも美人。「この子が男に生まれていたら…」と王太后カトリーヌも思ったか思わなかったか。それぐらいに、ただの政略結婚の道具で終わらせてしまうにはもったいない人材でした。だがそれだけではなく、このマルグリート、頭が良くて美人なだけではなく、いや美人であるが故か、いわゆる「性の方面」もかなり派手。一説には兄たちと「近親相姦」の関係にあった、という説もあるぐらい。美人でありますから、言い寄ってくる男には困らない。その全員とは言わないまでも、かなりの人数とは「男女の関係」になったようで…。

こんな感じで、夫婦それぞれが異性関係は派手。マルグリートは、子供の頃から後にアンリの政敵となるギーズ公アンリと相思相愛の仲で、世が世なら二人は何の問題もなく結婚できたことでしょう。同じカトリック信者でもあるし。ですが時代は、「ユグノー戦争」という宗教内乱に明け暮れるフランス。カトリックとユグノーの和解の象徴として、王太后カトリーヌよりユグノーの王アンリと「政略結婚」させられたのは述べた通り。そのギーズ公アンリへの叶わぬ想いを吹っ切るために、「派手な交友関係」に走ったか。一方アンリの方も、マルグリート個人に対しては何ら含む所はなくても、「母殺し」の疑いが濃厚な王太后カトリーヌの娘とは、やはり心のどこかでわだかまりが取れなかったか。結局この夫婦、正式に離婚する1599年まで何と20年以上も、「仮面夫婦」のままでした。ですがその間、二人が二人とも「派手な交友関係」でそれなりに楽しみます。日本人の感覚では「眉をひそめる」方が多いかもしれませんが、「フランス人的にはこれもあり」なのかもしれません。この国の政治家は昔から、愛人がいても何ら悪びれるところがありません。それは国王でも、皇帝でも、大統領でも同じ。余談ですが、故ミッテラン大統領がマスコミから女性問題について質問された時に、「Et alors? エ・アロール?」(それが何か?)とだけ答えて、平然と受け流した逸話も残っています。フランス人は今も昔も、何かあればすぐにストライキだ内乱だ革命だと、一つにまとめるのがなかなか大変な国民性です。フランスでリーダーになるには、これぐらい図太くないとやっていけないのでしょう。そういうお国柄の一現象、として真面目な方も受け流してください。あ、それと浮気や不倫を推奨している訳でもありませんから誤解のなきように。あくまで文化の違い、ということです(笑)

マルグリート

ですがアンリにとって、この度の王宮生活はこんな楽しいことばかりではありません。「サン・バルテルミの虐殺」の2か月後に始まった「第4次ユグノー戦争」において、今度は国王軍側で出陣させられ、それまで仲間だったユグノー軍と戦わなければならないことになったのです。もっともそこは「テキトー」にやって、国王軍側の作戦を「わざと」失敗に終わらせたこともあったとか。とは言っても、始終監視されていますから、そんなことばかりやっていては自分の身が危うい。時には「真剣に」ユグノー側に銃を撃ったりもして、心中を欺かなければならない、「本当の」自分の仲間たちに対して心苦しい思いを抱いた時もあったようです。

大体がこの頃までの戦争と言うのは、最前線で戦うのは大半が金で雇われた傭兵。特に山国のスイスや隣のドイツが「強い」傭兵の一大供給地でした。強いと言ったって、そこは生身の人間。命は惜しいし、国に家族を残してきている者もいる。ただ単に金稼ぎのためにやっているだけで、そこには王への忠誠心も愛国心もなく、相手がフランス王だろうがどこの国の王だろうが、命を投げ売ってまで戦う義理はない。そこでどうするかと言うと、傭兵たち同士で「テキトー」に申し合わせて、それなりに戦ったふりをして、「テキトー」な頃合いで退く。給料の支払いが1日でも遅れようものなら、もうそれ以上は戦わない。ベテランの傭兵にもなれば、あちこちの戦場で顔見知りになった奴も多く、「今回も程々の所でやめとくか」と申し合わせて、お互い商売あがったりにならないようにするのが、傭兵たちの間の「暗黙の了解」。ハッキリ言うと「談合」「八百長」。ですがこれはこれで、死者の抑制にもなっていたし、戦争の泥沼化も避けられていました。

この様相が変わってきたのは、「宗教」が絡んできてから。「信仰」のためには命をも辞さない人がいるのは、昔も今も同じ。「信仰の違い」=「根絶・抹殺の対象」。それまでのように、「適当な所で手打ち」をするなんてことは考えられない。敵を最後の一兵まで根絶やしにしないと気が済まないのが、宗教が絡んだ戦争の怖ろしいところ。アンリも、そんな様変わりしつつある戦争のただ中で、心ならずも「敵」(本当は味方)を撃たなければならない、辛い思いをした時もあったようです。

もちろんアンリも、ただ手をこまねいていただけではありません。何とかこの息苦しい王宮生活から脱け出そうと、再三再四、脱走を試みています。しかしいずれも失敗。そうこうしているうちに思わぬ味方が。シャルル9世の弟アランソン公フランソワ。この人、なぜか母である王太后カトリーヌからは疎んじられており、本人としては面白くない。それならばいっそと、アンリの脱走を手助けし、成功した暁には手を組んで一旗揚げようと共闘を持ち掛けます。しかしこのアランソン公、疎んじられるだけあってあまり役には立たない。さすが傑物カトリーヌ、見るべきはしっかり見ていたというべきか。そうこうしているうちに1574年、シャルル9世が結核のため23歳の若さで死去。またもや後継ぎを残さずに死去したため、後を継いだのはなぜかポーランドの国王になっていた弟アンジュ―公アンリ。兄の死の報せを聞くと、逃げるようにポーランドから帰って来て即位。「アンリ3世」となります。

アンリ3世

このアンリ3世の即位式のドサクサに紛れて、アンリは再度脱走を試みますが、またもや失敗。この後も度々脱走を試みますが、それと同時に王宮内でのロマンスも楽しみます。特に助けの手を差しのべてくれているアランソン公フランソワの愛人にまで手を出すのですから、その神経の太さたるや、やはり並ではありません(笑)。もちろんマルグリートの方も夫に負けず劣らず、王宮内での「愛情生活」を楽しんでいます。

そうこうしているうちに、フランスの政治情勢にも変化の兆しが。王太后カトリーヌに重用されずに不満を抱いていた有力貴族たちが、南フランスのユグノーたちと信仰の違いを乗り越えて結託。名門貴族モンモランシ―が暫定の頭領に。これに先に脱出に成功している従兄弟のコンデ公アンリが、お隣ドイツで集めている資金と兵力が合流したら、結構無視できない勢力に。さらにはあろうことか、愛人を寝取られて怒り心頭に発したか、アランソン公フランソワが王宮を脱走してこの勢力に合流。このまま王宮なんかで呑気に遊んでいたら、本当に自分の居場所がなくなってしまうのでは…?そんな焦燥に駆られたアンリ。今度こそ何とかして脱出を、と必死になること数度。遂に1576年2月3日、狩猟に出かけた最中に、隙を見計らって脱走に成功。一方、一人残されたマルグリートは…?さほど悲しむ素振りも見せず、言い寄ってくる貴族たちとの「愛情生活」を楽しんでいたようです…(笑)。

こうして王宮を脱走したアンリ。当然のことながら、またもや、しかし今度は自発的にユグノーに「改宗」。乱世です。これぐらいは平気な顔して出来なければ、生き残ることは出来ないのです。さて、脱走したその先に待つのは…?

続きは次回に。また1週間後の配信です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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