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●離婚、再婚、そして…

国王即位から内戦終結と激動の人生に隠れがちですが、アンリ4世にはマルグリート・ド・ヴァロワというれっきとした妃がいます。しかしもう何年も顔を合わせていない、完全な「仮面夫婦」。お互い愛人が入れ代わり立ち代わりして、よろしくやっています。当然二人の間には子供もいません。が、この状態が続いては先代のヴァロワ朝と同じ道を辿りかねません。つまりは国王に跡継ぎがいない、そしてお家断絶…。

しかし今更マルグリートとの関係好転も望めない今、アンリ4世は愛人であるガブリエル・デストレとの再婚を本気で考えます。しかも既にガブリエルとの間には3人の子を生している。ガブリエルが妃になれば、自分の子供が後を継いでいくので、ブルボン王朝も安泰。そのためにはマルグリートとの婚姻が無効である、というローマ教皇のお墨付きが必要。王族は勝手に結婚も離婚も出来ないのです。マルグリートが離婚に同意することはまず間違いないので、ローマ教皇の同意さえ取り付けられれば、後はスムーズに事が運ぶだろう。

ですが側近たちは、ガブリエルの身分の低さを理由に難色。マルグリートも最初は簡単に同意しましたが、相手がガブリエルと知ったとたんに態度を翻し、慰謝料の釣り上げなど嫌がらせを始めます。ガブリエルと何が何でも結婚したいアンリ4世と、他の相手を差し向けたい側近たち。この前まで内戦を共に戦い抜いた者たちが、再婚相手のことで揉め始めるのも何か滑稽ですが、事はあっけない展開で幕切れ。アンリ4世があれほど恋い焦がれたガブリエル・デストレが1599年、28歳の若さで急死。あまりのタイミングの良さに「毒殺」説がその後も絶えませんが、真相は闇の中。恋多きアンリ4世もさすがにしばらくの間は落ち込んだようですが、この後も女性関係は絶えなかったようですから、その図太さたるや…。これぐらいじゃないと激動の時代の国王は務まらないのでしょう。

望み通り(?)にガブリエルとの再婚を阻止できた側近たちは、すぐに次の再婚相手を見つけ出します。その相手はマリ・ド・メディシス。亡き王太后カトリーヌと同じで、イタリア・フィレンツェの大富豪メディチ家の娘。この時25歳で、この時代にしては少し遅めの結婚。もちろんこの時まで、二人は一度も会ったこともなく、例によっての完全な政略結婚。約40年も内戦が続いたフランス王室、当然ながら財政は火の車。メディチ家にも戦費などでかなりの借金があります。側近たちはマリがアンリ4世と結婚することでもたらされる持参金で、少しでも借金の棒引きに充てようという、政略そしてお金目当ての結婚。1600年にフランス入りして結婚しますが、そんな理由ですから今度も夫婦円満は望めません。それでも前妻のマルグリートの時とは違って6人の子を生していますから、お互いそこは「大人として」割り切ったと言うべきか。この6人の子の長男がルイ13世としてブルボン王朝の後を継ぎ、他4人は女子、一人は早逝。4人の女子は各国の妃として嫁いでいくことになります。

アンリ4世とその家族

アンリ4世が統治で取り組んでいく課題は、一にも二にも国内の安定と財政状況の回復。かつての有力貴族に対しては、名誉職に就けてはあげるものの政治には極力関わらせず。傍近く取り上げるのは新興貴族。彼らに官職を与えて仕事を任せ、その官職を購入させて世襲を認めてあげる代わりに、その一部を税金として納めさせるなどして、どうにか財政の回復に努めます。結婚相手の持参金だけではたかが知れてます。それとは対照的に、国民の大半を占める農民からは延滞金を免除したりと、総じて「民に優しい」政治を行います。この辺りが「善王」と呼ばれ、今でも一番人気の国王である所以でしょうか。ユグノー戦争時に比べればだいぶ安定していますが、未だにカトリック側からは「本当に心の底からの改宗か?」と疑われ、ユグノー側からは「コロコロ変わりやがって!」と反感を持っている勢力もいます。それでも国民の大多数から支持されたのは、その陽気で(女性関係も含めて)自由奔放な性格と、状況に応じてスパッと切り換えられる良い意味での「テキトーさ」、そして何故か人から愛される「人ったらし」ぶりでしょう。

そのアンリ4世は1610年、お隣の神聖ローマ帝国内でハプスブルク家に抵抗するプロテスタント勢力を支援するために57歳、還暦を目の前にしてまたもや出陣。カトリックに改宗した王が、カトリックのハプスブルク家と戦う。改宗しようがしなかろうが、フランスにとってハプスブルク家はスペインとドイツ、つまり東西からフランスを挟み撃ちする宿敵なのです。これが宗教を超越した政治の複雑さですが、怒りを感じた熱狂的なカトリック信者も少なからずいました。「やはり改宗は上っ面だけか?」そのように思い込んだ熱狂的なカトリック信者が、ドイツへ向かおうとするアンリ4世の一隊に忍び寄り、そしてアンリ4世が乗る幌馬車の従者がほんの少し離れた隙を見計らって一気に近づき、国王の胸を一刺し!心臓と肺を刺され致命傷となったアンリ4世、その場で息絶え57年の生涯に幕を閉じます。宗教内乱に揺れるフランスを統一し、自らも何度も改宗する「テキトーさ」で度々の危機を乗り切ってきた、類稀なる「強運」の持ち主であったアンリ4世でしたが、最期は少しあっけない幕切れでした…。

ただこの数日前から「今回は確信が持てない…」と珍しく弱音を漏らしていたそうですから、自分の中では薄々感じるものがあったのかもしれません。「ここまで良くやったが、さすがに今回はもう無理か…」という、生涯戦場を駆け抜けてきた男の直感か。今でも「良王」「善王」と呼ばれ、ナポレオンよりもはるかに人気のあるアンリ4世。乱世のフランスを統一した一代の英雄。その最期は普通にベッドで病死するよりも、ある意味で「英雄」にふさわしいものだったのかもしれません。

続きは次回に。また1週間後の配信です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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