☆国事詔書

1713年、カール6世は『国事詔書』(プラグマーティシェ・ザンクチオン)を発布します。これは一言で言えば「相続遺言書」。「我が亡き後のハプスブルク家相続順位は、筆頭がマリア・テレジア、その次はマリアンネ、二人に嗣子がいない場合には、兄ヨーゼフの娘たち」ということを定めました。これとても自分の直系の娘たちにもし嗣子が生まれない場合は兄の娘たち、つまり自分の姪たちが相続する、という折衷案をも盛り込まざるを得ない、苦心の策。そうなれば先に挙げた二人の選帝侯は、自分の妻を通じてハプスブルク家に対して影に日向に影響力を行使しよう、ということになるのは火を見るよりも明らかです。つまりカール6世にとっては、「自分は男子を遺せそうもないが、せめてマリアよ、またはマリアンネよ、我が目の黒いうちにどうにか男子を生してくれ」という、心の底からの悲鳴にも似た叫びが盛り込まれたものなのです。

「サリカ法」と呼ばれる、古代ゲルマンの方に倣って男子相続を旨としてきたハプスブルク家にとっては、まさしく「革命的」と言っても良いほどの大転換。しかも「カトリックの守護者」「キリスト教世界の守護が我が一族の使命」と自負するハプスブルク家の当主に王女が、というのは歴史的な大事件。周辺各国が「国際常識に反する」などと、何かと文句をつけては見返りを要求してくることは目に見えています。「他国の君主が女性でもいいじゃないか」というのは、女性が社会の各分野で活躍するようになった現代の感覚。この18世紀のヨーロッパにおいては、まだまだ男性優位の時代。口には出して言いませんが、「女に政治が出来るのか?」というのが、本音のところなのです。いや、もっと本音に近い所を言えば「これでハプスブルク家も終わりだ…」

このカール6世が「窮余の一策」「渾身の一滴」、はたまた苦し紛れに打ち出した一手。オーストリアの国内では、ハプスブルク家の威光も手伝って何とか承認されます。ところが海千山千の諸外国は、そうは行きません。これを機に、ヨーロッパのど真ん中でこれまで散々に偉そうな面をしてきたハプスブルク家に対して、ここで一泡吹かせてやろうと、あの手この手で、それこそ「恥も外聞もない」要求を突き付けてきます。ある国は領土を、他の国はもっとあからさまにお金を…、と言った具合に。

これら諸外国の悪質な「強請りたかり」に対して、カール6世は腸が煮えくり返るのを懸命に押さえながら、ハプスブルク家の領地であるイタリアやネーデルラントの領地の一部を切り売りするなどして、極力諸外国の要求に応えて、長女マリアの王位継承を何とか認めさせていきます。

やっとの思いで主要列強とのやりとりを終えたカール6世。「これで長女マリアの代になっても、我がハプスブルク家は安泰である」と、ほっと安どの一息。こういった点、カール6世に限らず歴代のハプスブルク家当主には、まるでヨーロッパの中央で複雑な国際政治を担う大国の君主には似ても似つかわしくない「お人好しさ」があります。「諸列強とはきちんと約束した。彼らはきちんと約束を守るはずである。だから安心だ…」。

カール5世

ハプスブルク家には昔から、「信仰心篤い我が一族には、必ずや窮地にあっても神の恩寵があるはずである」という、それ自体が信仰に近い、強烈な自負心があります。実際ハプスブルク家の歴史を振り返ってみると、「ほとほと強運」としか言いようのない行幸に恵まれて生き残ってきた感が無きにしも非ずです。無能がゆえに神聖ローマ皇帝に祭り上げられた始祖ルドルフ1世。窮地に追い込まれる度に政敵がこれ以上ないタイミングで死に、自分だけが生き残ったフリードリヒ3世。親の結婚政策がドンピシャではまって、スペインからアメリカ新大陸の領土まで統治することになったカール5世。「ほとほと強運」に恵まれた人物が多いのも事実。しかしその裏返しとして、「無策」「神頼み」「人の言うことを鵜呑みにするお人好しさ」が、時に垣間見えます。しかも相手にどんなに約束を破られようが、「我が一族は信義に基づいて行動すべし」という、やられ損の目に遭うこともしばしば。それでもそんなハプスブルク家が、他国の君主が革命で倒れたりするのを尻目に、21世紀まで命脈を保っているのですから、人生考えさせられる点があります。ある部分では「バカ正直さ」も人生には必要なのかもしれない、と。

プリンツ・オイゲン公

カール6世は、それほど「強運ぶり」を発揮した人物でもありませんが、娘のマリア・テレジアには隔世遺伝によって、ご先祖様たちの「ほとほと強運」ぶりが乗り移っているか?それはこれから彼女の人生をとくとご覧いただくことになります。がしかし、そんなカール6世の人の良さに、敢然と警鐘を鳴らす人物も。オーストリアの英雄であるプリンツオイゲン公。「スペイン継承戦争」の英雄にして、後にドイツやオーストリア、イタリアの軍艦にもその名が付けられた名将は、「王女には役に立たない紙切れ(国事詔書)よりも、強力な軍隊と財源を残すべし」と、いかにも数多の戦場を駆け巡ってきた軍人らしい、リアリズムに徹した一言。戦場では神頼みなんて、何の役にも立たない。頼れるのは己の実力のみ。しかしそんな警鐘も、安ど感でいっぱいのカール6世には届かず、後はただひたすら「栄光と平穏に満ちた余生を送って、神の元に赴くのみである」の心境。そして諸外国は口には出さずとも、「カール6世が死を迎えるのを指折り数えて待つ」ことに。皇帝が神の元に召された暁には、中央ヨーロッパにこれ以上ない良質な猟場が出現することになるのですから。

 

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